Talky Organs
People In The Box
2015-09-02


 今回はPeople In The Boxの「Talky Organs」について、ディスクレビューしていきたいと思う。

 2015年にリリースされたミニアルバム作品となり、比較的難解な要素は身を潜め、よりポップになっている作風で、完成度が非常に高く、全体的に手堅くまとまっている印象を受けるものに仕上がっている。

1.空は機械仕掛け

 シンセサイザーの音が鳴り響き、壮大なサウンドスケープを感じさせてくれる。複雑な鍵盤の調べが巧みな楽曲を支配していくようだ。ギターのミュートフレーズが、バンドサウンドに厚みを持たせており、小技が効いた形になっている。なお、ライブ版では3ピースならではのアレンジを披露しており、原曲との違いが楽しめるようになっている。

  

 アコースティックギターの音が効果的に挟まれたりと、スリーピースのバンドサウンドの枠を超えたような表現力の豊かさも見せてくれる。ベースや、ドラムがセクションごとに表情を変えながら、フレーズを作り出していく様も圧巻だ。

2.セラミック・ユース

 優しく、素朴な鍵盤の音が波多野氏の声を引き立たせており、双方の相性の良さを証明している。ポエトリーリーディングのようなパートでは、意図的にノイズが盛り込まれ、異質な感じを生み出しており、そのギャップからリスナーの耳に残るアプローチになっている。

 先の読めない展開に翻弄されながらも、多層的に重なった楽曲同士のサウンドのレイヤーに魅了されていくような興奮を覚える。徹底的なまでに練られたバンドアンサンブルから放たれる、静と動のギャップ感が、非常に心地良いナンバーとして出来上がっているのが分かる。

3.机上の空軍

 シンプルで飾らないギターのアルペジオと、意識的に作られたノイズトラックが違和感なく融合しており、独自の空気感を作り出している。ベースのハイフレットを用いたメロディアスなフレーズも絡み、柔らかいサウンドデザインがなされている。

 サビでは思いっきりポップな歌のメロディが鳴り響いている。壊れたようなシンセサイザーのサウンドがサイケっぽい感じを醸し出しており、ポップながらも歪さも際立ったバンドアンサンブルに、絶妙なバランス感覚がもたらされていることに気づく。

4.映画綺譚

 煌びやかなクリーンと、激しいノイズが渦巻くディストーションの対比が、とても美しい楽曲となっている。ベースのサウンドも重たく歪んだ存在感を放っており、太い音の輪郭を纏った攻撃的なフレーズが特徴的だ。

 サビのメロディがポップかつキャッチーであり、親しみやすいものを感じさせる。アコースティックギターが随所に挟まれていくことで、バンドサウンドに清涼感のようなものを与えており、爽やかさもある楽曲に仕上がっている。

5.野蛮へ

 イントロから力強いビートが楽曲を引っ張っており、神秘的なシタールのようなサウンドと見事に同居している。シンセサイザーのような音もたされており、バンドアンサンブルに厚みをもたらしている。

 ギターのディレイなども多用され、終始不思議なサウンドに包まれている。それが有機的なバンドサウンドと混ざり、絶妙なバランス感で成り立っていることが分かるだろう。今作「Talky Organs」は揺らいだ音像と、オーガニックなバンドサウンドの融合が、巧みに図られている楽曲が多いことを実感できる。

6.逆光
  

 まばゆいほどの光に照らし出されたミュージックビデオが印象に残る。まさしく"逆光"を体現するかのような、完成度の高いものに作り上げられている。「Talky Organs」のリードトラックに相応しい、力強くキャッチーな楽曲として位置している。

 ギターのリフがシンプルでそれでいて、耳に残るものが多い。こういったギミックが確実にフックとして機能している。サビなどで聴けるコーラスワークも器用で、楽曲に表情を付けていくのが相変わらず上手いバンドであることを再認識させられてしまう。

7.季節の子供

 オーガニックで、響きの豊かなアコースティックギターのアルペジオが、楽曲を鮮やかに彩っている。あまりバンドサウンドに音数が重ねられてないこともあり、そういった自然な響きを第一に聴かせたいという狙いが感じられる。

 隠し味程度に挟み込まれるリバーブを用いた神秘的なギターのサウンドが、バンドサウンドを壊さない程度に音の広がりをもたらしており、アレンジセンスの高さを感じさせてくれる。どこまでも波多野氏の優しい歌声が響き渡り、作品のエンディングを迎える。

【総評】
 
 柔らかくオーガニックなバンドサウンドが大きく目立つが、そこに変化を加えるために効果的にノイズを用いたり、様々な楽器の音を混ぜ込んだりと、シンプル一辺倒にならないようなアレンジが、随所に挟み込まれていることが聴き取れるようになっている。

 「Talky Organs」は、People In The boxが持つキャッチーなメロディセンスが、全曲で遺憾なく発揮されており、耳なじみが良いものばかりになっている。7曲とコンパクトな楽曲数であることも相まって、彼らのキャリアの中でも普遍的な聴きやすさを併せ持った作品ではないだろうか。