渦になる
きのこ帝国
DAIZAWA RECORDS/UK.PROJECT
2012-05-09


 今回はきのこ帝国のミニアルバム作品である、「渦になる」についてディスクレビューしていきたいと思う。

 2012年に初の全国流通盤としてリリースされ、シューゲイザー/ポストロック/オルタナティヴロック/サイケデリックロックなどの音楽性を有した新人バンドとして、当時話題になったことが記憶に新しい。デビュー作ながらも既に世界観は出来上がっていることからも、早くも才覚を表し始めている作品となっている。

1.WHIRL POOL
  
 
 イントロから悲鳴のようなギターノイズが響き渡り、シューゲイズの音の壁が展開されていく。掻きむしるような単音フレーズは、嫌でも耳に残る強烈なアクがある。男性のコーラスが積極的に佐藤氏の声と重なり、広がりのあるハーモニーを生み出しているのも耳に残る。

 空間系を駆使して、どこまでも伸びるリードギターのサウンドがアンサンブルを駆け回っており、楽曲に浮遊感を与えているのが、大きなポイントだと思われる。歌うようなフレージングも、この時期から既に確立されており、ギタリストとしての才覚が発揮されている。

2.退屈しのぎ

 デビューミニアルバムの2曲目にも関わらず、8分越えの楽曲となっており、当時の彼らの音楽に対する挑戦的な姿勢が汲み取れる。曲全体の雰囲気も陰鬱としており、聴きやすいとはとてもいえないが、こういった所にきのこ帝国らしさが強く含まれており、コアなファンを作り出したのではないかと思う。

 さながらもはやアルバムの終盤の曲のようなテンションであり、なんならこの曲で終わってしまうのではないかという、緊迫した空気感に包まれている。静と動のコントラストのギャップが凄まじく、轟音サウンドに切り替わる瞬間が来るとは分かっていても、やはりハッとさせられてしまうような迫力に溢れている。

3.スクールフィクション

 ポストロックを彷彿とさせるような、小刻みでシャープな単音リフが印象に残る。他の音楽性としては、ギターロックから受けた影響もかなり大きく、「渦になる」という作品の中でも、特段疾走感にあふれているナンバーになっている。

 セクションごとに、音数の足し引きも巧みになされており、メリハリのついたバンドアンサンブルが構築されている。キメを多用していることもあり、ライブ映えを意識したかのような勢いもある。きのこ帝国のロックバンドとしての実力が、大いに反映された楽曲であることは間違いない。

4.Girl meets NUMBER GIRL
 
 イントロから炸裂している2本のギターのコンビネーションが、バンドサウンドに音の広がりをもたらしている。バッキングとリードギターの音の対比も多く用いられており、「渦になる」の中の楽曲において、特にギターサウンドの旨みを堪能できるようになっている。

 M3の「スクールフィクション」同様にギターロック色が強く、どんどんと前に突き進んでいくようなテンションの高さがある。佐藤氏の力強い歌声にもフォーカスが強く当てられており、バンドサウンドを引っ張っていくようなパワーを感じられる。
 
5.The SEA
 
 曲名通りに、イントロで海の音がサンプリングされており、リスナーにイメージを感じさせてくれる。M3~4で続いたギターロックナンバーのが流れは終わり、ゆったりとした静寂さを描き出した楽曲となっている。ギターの煌びやかなサウンドスケープがそれをさらに強めているのも特徴的だ。

 佐藤氏の包み込むようなおおらかなボーカリゼーションも、バンドアンサンブルの中で目立っており、より引き立つ形になっている。他の楽器の音数が少ないことからも、きのこ帝国の持つウタモノの側面が大きく前に出た楽曲に仕上がっている。

6.夜が明けたら
 
 
 シンプルなギターのクリーンアルペジオがイントロから鳴り響いており、その後も強く楽曲を牽引するアプローチを取っている。ベースがそのシンプルなバンドアンサンブルの中でうごめいており、動きを付けてより楽曲の表情を豊かにしている。

 陰鬱で諦感にまみれた歌詞の世界観と、楽曲の煌びやかさが儚くも高い融和性を生み出している。佐藤氏の歌い方も、執念深さを感じるような叫ぶような歌い方をしており、聴き手に対してエモーショナルな感情を叩きつけているようだ。

7.足音

 M2の「退屈しのぎ」と同様に堂々の8分越えの楽曲となっており、壮大なサウンドスケープをリスナーに見せつけている。素朴でストレートなベースラインが大きく前に出ており、無骨で飾らないバンドアンサンブルが繰り広げられていく。

 楽曲が進行していくにつれて、だんだんと楽曲に表情を付けていくようなアプローチは見事であり、サステイン豊かなギターサウンドが、楽曲の音像を拡張していくようなイメージを体感できる。後半部分で展開される暴力的なまでの轟音サウンドがエンディングを飾り、「渦になる」という作品は幕を閉じる。

【総評】

 全7曲約47分となっており、ミニアルバムにしてはかなりのボリューム感に仕上がっていることに驚かされる。全体的に1曲1曲の楽曲時間が長いことから起因していると思われるが、それほどにきのこ帝国のありのままの姿を映し出している風にも感じるのだ。

 デビュー作品ながらも、ミニアルバム全体で多様な音楽性を有していたり、曲順も緩急をつけた配慮がなされていたりと、作品としてのバラエティや、完成度を重視している意思が感じられるのもユニークなポイントになっている。ジャパニーズシューゲイザーの金字塔へと昇りつめた、きのこ帝国の原点が、まさしくこの「渦になる」に封じ込められていると私は思う。