今回は配信でリリースされ、のちにアナログ盤も販売されたシングル作品「ghost/tip of a finger」について、ディスクレビューしていきたいと思う。

 今作においては、前作のフルアルバム作品である「SPOOL」で象徴的だった、オルタナティブロックや、グランジの要素は後退し、彼女たちの持つクリアでドリーミーなサウンドが前面に押し出されるようになり、よりシャープな音像で研ぎ澄まされたバンドアンサンブルによって、構築されたシングル作品となっている。

1.ghost
  

 どこまでも透明でウェットな音像が展開されていて、その中でも解像度の高い煌びやかなリードギターのフレーズに惹かれてしまう。効果的に織り交ぜられていくコーラスワークも儚い存在感を放っており、バンドサウンドをより幻想的な雰囲気のあるものへと昇華している。

 間奏も多く取り入れられた楽曲となっており、楽器同士のサウンドの絡み合いや、繊細な音使いにSPOOLらしい美学が表れている。特に中盤で大きく動き回るベースフレーズが印象に強く残るものとなっており、楽曲を巧みに表情を付けることに成功している。

2.tip of a finger
 

 SPOOLのクールな演奏シーンが、鮮やかな色味をもって描かれたミュージックビデオが印象に残る。ソリッドなバンドサウンドによって構築されたナンバーになっており、音数も削ぎ落とされていることからも、より彼女たちの生の演奏に近いようなサウンドデザインを感じさせる。

 ギター隊のシンプルなアプローチが、楽曲を確かに彩っている。全体的にクリーンなサウンドが目立つが、終盤では意表を突くように、ノイジーな音色で攻めてくることからも、静と動のギャップがきちんと図られていることが分かる。それに加えて、バンドの演奏を支えることに徹しているリズム隊のプレイも、確実に楽曲のレベルを引き上げる要因になっている。

【総評】

 前作よりも演奏を聴かせるようなアプローチが増え、ポップな要素が後退したことからも、SPOOLの音楽に対するアティチュードの変遷が垣間見えるのではないだろうか。作品ごとに違う表情を見せてくれることからも、彼女たちの表現力の高さが窺えるようになっている。

 より、近年のドリームポップに接近したようなアプローチが見られるようになり、音の壁というよりは、ミニマルなリフを効果的に用いたりと、シャープになったバンドサウンドを新たなスタイルとして取り込むことに成功している。このシングルの作品群を持って提示してくれた新しい要素が、次回作にどのように表れていくのかが非常に楽しみである。