SPOOL
SPOOL
TESTCARD RECORDS
2019-02-13


 今回はSPOOLのフルアルバム作品である「SPOOL」についてディスクレビューしていきたいと思う。

 SPOOLは都内のライブハウスを中心に活動しているバンドであり、シューゲイザー/オルタナティブロック/グランジ/ポストロックなどの幅広い音楽性に影響を受けながら、低体温で憂いのあるメロディや空気感を有しており、それを大きな特徴としている。

1.nightescape

 ドラムの力強いビートから楽曲が幕を開ける。そこに重なるようにベースとギターが入り、だんだんと音数が増えていくバンドアンサンブルから迫力が感じられる。コーラスワークも効果的に盛り込まれ、よりバンドサウンドに広がりをもたらしている。

 安定感のあるリズム隊のプレイの上で、シンプルなギターのアルペジオが淡々と鳴り響いており、妙な緊迫感に包まれている。曲のメロディも仄暗いテンションとなっており、よりその緊張感を強めている。そして静寂な音像から一変して、後半で大きく爆発するディストーションギターのサウンドにはパンチがあり、思わず耳を奪われてしまう。

2.Be My Valentine
 

 どこか冷めきった仄暗い曲調でありながら、不思議とキャッチーな一面も併せ持つナンバーとなっており、紛れもないSPOOLの代表曲となっている。彼女らの楽し気な素の姿を切り取ったミュージックビデオもユニークで印象的に残る。

 他の曲でも見られる傾向だが、バッキングギターとリードギターの音の棲み分けがかなりハッキリとしており、リスナーにとって、聴き取りやすい音像で構築されているのが分かる。ボーカルにかかっているリバーブの加減も絶妙で、こばやし氏の持つ艶のある声の魅力を引き立たせるように処理がなされており、高いサウンドデザインのセンスを感じる。

3.Let me down

 イントロから刺々しいディストーションギターの絡み合いが炸裂しており、どこか90年代のオルタナティヴロック、グランジの持つ危うげな雰囲気を匂わせている。気怠そうなボーカリゼーションからも、一層そういった音楽性からの影響が垣間見れるだろう。

 退廃的な空気感に満ちていながらも、聴き手の耳に強く残るポップなメロディは健在であり、恐ろしいほど緻密なバランス感によって、楽曲が成り立っていることが証明されている。堅実に支えるリズム隊のプレイも必聴ポイントであり、バンドの土台をしっかりと固めていることが分かるはずだ。

4.Shotgun

 Aメロ、Bメロではクリーンなサウンド、サビでは歪んだサウンドが顔を出すような、静と動を思わせるギャップのある音像で、バンドアンサンブルが構築されており、セクションごとにテンションのメリハリの付いた形のナンバーとなっている。

 曲の中では多くギターのアルペジオフレーズが顔を出しており、楽曲を華やかに彩っている。シャープなギターの音作りも相まって、確かな聴き心地を聴き手に対して生み出すことに成功している。

5.winter

 イントロから掻き鳴らされているノイジーなツインギターのコードストロークが迫力満点であり、楽曲にダウナーなオーラを纏わせている。まるで、往年のThe Jesus And Mary Chainを聴いているかのような感覚に陥いってしまうだろう。

 楽曲で終始鳴り響いている美しいハミングの歌声がコーラスワークとして入っており、ノイジーな音像と、かなり高いレベルでの親和性が生まれており、ノイジーで混沌とした音像の中で、まるで天使が聴き手に優しく囁きかけてくるかのようなイメージが頭の中で浮かんでくる。

6._ _ _ _ _ _

 一種のサウンドトラック的な感じのナンバーであり、シンフォニックなギターの響きとノイジーなギターノイズが交錯して、曲が紡がれている。そしてここからは作品における第2部に突入し、空気感が一気に変わっていく。

7.sway,fadeaway(angel version)

 過去作を更にドリーミーな雰囲気にしたような形で再録した楽曲である。イントロから確かな疾走感を持った力強いドラムのビートと、まばゆく煌びやかなリバーブのかかったギターが印象的で、聴き心地の良さに溢れている。

 天使の歌声のように神秘的なコーラスワークが効果的に使われており、包まれるような優しさがある。さらに、他の楽器の動きに目を向けると、ベースのプレイが特に器用なものになっており、楽曲に対して表情を巧みにつけているのが好印象だ。

8.blooming in the morning
  

 アルバムの中でも特にクリーンな音像のナンバーとなっており、海外インディーのドリームポップから影響を受けつつも、ポストロックのような、精密に構築されたリズムセクションも特徴的になっているナンバーだ。

 こばやし氏の透き通るような歌声が、バンドアンサンブルの中でも大きく前面に押し出されており、魅力が最大限に引き出されている。ツインギターの絡み合いも見事であり、整合性が非常に高いフレーズメイクがなされている。

9.springpool

 ストレートなバンドサウンドが鳴り響いており、シンプルな構成になっていることからも、SPOOLの地の演奏力が如実に反映されている印象を強く受ける。派手な展開やギミックが無くとも、根幹的な楽曲の造りがしっかりしているので、聴き手を飽きさせることはない。

 シンプルながらも堅実なプレイをするバッキングギターと、リードギターのコンビネーションは抜群であり、楽曲のレベルを確実に向上させている。アウトロでの多層的なコーラスワークの重なりが、音像に立体的な奥行きを与えているのもポイントとなっている。

10.mirrors

 アルバムの中でも変わったリズムになっており、ドラムの力強くも器用なプレイに耳を奪われる。2本のギターの重なり具合もユニークで、細かい動きを付けたアルペジオフレーズが楽曲にカラフルなイメージを付けている。

 楽曲の構成にもギミックが仕込まれており、2:18~あたりから一気に展開が変わって強烈なフックとして作用している。ただ、全体的に軽やかな印象は変わらず、雰囲気は丁寧に保たれたままなので、違和感のない形で成り立っている。

11.モ ル ヒ ネ
 

 幻惑されるようなオーラを放つギターのサウンドデザインに圧倒されてしまう。サイケデリックロック~ドリームポップからの多大なる影響をSPOOLなりに消化し、見事に自分たちのものにしていることからも、音の揺れ感が非常に聴き心地が良いナンバーとなっている。

 リズム隊が堅実でありながらも、器用に動きを付けるプレイをしている。それによって、幻想的なバンドサウンドに肉感的なリズムを付与することに成功しているのだ。バンドの土台となる部分がしっかりしているので、その上でギターが自由に泳ぎ回れるのだなと改めて気付かされる。

12.No,thank you(altenative mix)

 アルバムの最後を飾るのは、オルタナティブロック~グランジからの影響が全開なハードなロックナンバーである「No,thank you」となっている。こちらの楽曲は過去音源のリミックスナンバーとなっており、より今回のアルバムの空気感に合わせられた調整が図られている。

 タイトルや歌詞からも何かを強烈に突き放すような印象を受ける。そういったヒリヒリとした焦燥感めいたテーマが、ハードなバンドサウンドと渾然一体の融合を遂げている。最後まで聴いていると、自然と猪突猛進にノイズを掻き鳴らす彼女らの姿が、自然と頭の中に浮かんでくるのではないだろうか。

【総評】

 フルアルバムらしく、全12曲約42分とボリュームに溢れた大作となっており、聴きごたえ抜群だ。幅広い音楽性に影響を受け、巧みに取り込んでいることからも、バラエティに溢れた作風となっており、リスナーに飽きを感じさせない工夫が至る所に施されていることが分かる。

 特にM6「_ _ _ _ _ _」前後では、A面とB面が入れ替わったかのように空気感が変わり、そういった細かいところにも、彼女たちの徹底した美意識の高さを感じる。演奏力自体も非常に高く、楽曲の持つ世界観を遺憾なく広げており、キャッチーなメロディも合わさって、SPOOLの持つ魅力がこれ以上ないほどに解き放たれている。