The Alchemist
ART-SCHOOL
KRE
2013-03-13


 今回はART-SCHOOLのミニアルバム作品である「The Alchemist」についてディスクレビューをしていきたいと思う。

 「The Alchemist」は、「Flora」以来となるROVOの益子樹氏のサウンドエンジニアとしての起用が当時話題となり、前作にあたる「BABY ACID BABY」とは対照的な、立体的で音の広がりを感じるような作風になっている。その中でART-SCHOOLが持つ、メロウな部分が全面的に押し出されているのが特徴的な作品となっている。

1.Helpless

 イントロから中尾氏の力強く、音の輪郭の太いベースラインの上に、戸高氏のモジュレーションを最大限駆使したリードギターが乗っかるような形で演奏が展開され、ドラッギーでギラギラとした危うすぎる音像が大胆にも展開されている。

 歌詞に至っても<You say 「Hello,天国じゃないの?」 I say 「No,もう死んだ脳」> <まるでHellplessさ 此処はHell placeさ>とかなり混沌とした内省的な歌詞観が展開され、まるで作詞した木下理樹氏の心象風景を、そのまま覗き見ているような感覚に陥るほどのインパクトがある。

 サウンドに関しては全体的に過剰なまでのエフェクトがかけられ、ダビーな空気感に支配されている。ART-SCHOOLの楽曲に関しては珍しく、サックスが取り入れられており、楽曲にアダルトな酩酊感をもたらすことに成功している。オルタナティヴな音像に、歪んだサックスの音が違和感なく溶け込んでいるのが心地よい。

2.フローズンガール
  

 バンドでの演奏と、歌詞の世界観をそっくりと映し出したような男女が愛し合うシーンが交錯しながら描写されていくミュージックビデオが非常に印象的だ。

 曲調としても、ART-SCHOOLのメロウサイドが全面にでたようなものになっており、ネオアコ/ギターポップ/ニューウェーブ/ドリームポップなどの影響が大きく反映されており、楽曲全体を通して煌びやかでクリーンな音像が展開されている。

 このころの木下氏は声帯にダメージがあったそうで、少しザラザラとしたような声質が顕著になっている。むしろその声質が「フローズンガール」の煌びやかな音像と対照的でそれゆえに、生々しい世界観を紡ぎだすファクターとなっていることは間違いない。

3.The Night is Young

 キラキラとした透明感のある音像で、ユニゾンするようなフレーズのツインギターのフレーズがイントロから登場している。バッキング/リード的な分け方ではなく、2本で1つのフレーズを弾くようなアプローチはART-SCHOOLにしては珍しい手法だと思われる。

 さらに特筆すべきは、藤田氏のビート感の強いタイトなドラミングだろう。手数が多い中で、緩急のついたプレイをしており、聴いていて非常に気持ちがいい。それに追従するようなアタックの強い中尾氏のベースラインもしっかりとボトムを支えており、バンドとしての土台の強固さを確認できる。

4.Dead 1970
 
 ド頭から脳天をぶち抜かれる様なハードで、疾走感に溢れたバンドサウンドが容赦なく展開されており、それまで続いていたキラキラとした作品の空気感が一気に変わったことが肌で感じられる。

 どの楽器も非常に勢いがあり、特にギターやベースにディストーションが強くかけられているのが特徴的だ。ギターにおいてはAメロでヘヴィな単音リフを弾いていたり、サビ明けの間奏で一瞬静かになるセクションでは、空間系のエフェクトを用いて音像を広げるような役割を担っていたりと、場面ごとに非常に器用なアプローチを施し、楽曲に緩急のついたテンションを与えることに成功している。

5.光の無い部屋

 ここにきて、再びM2~M3で続いたようなギターポップ路線の曲調に戻る。愁いを帯びたような歌詞とサウンドが非常に印象的で、「光の無い部屋」というタイトル通りに、空虚感を上手くバンドサウンドで表現しているように思える。

 コーラスエフェクトが強めにかかった、ドリーミーなギターのコードワークから美しさを感じさせてくれる。音の広がりがあり、煌びやかな音像を紡ぎ出しているのも印象的だ。リードギターのフレーズもメロディアスさに溢れており、楽曲の中で耳に残るフックのような役割を果たしてくれている。

6.Heart Beat
 
 あまり何々っぽいというのが形容し難いこのナンバーにて「The Alchemist」は幕を閉じる。中尾氏の力強いベースラインを軸にして楽曲が進行していくのが特徴で、その上で全体的に音数が意図的に絞られており、より生々しいバンドのソリッドなサウンドを堪能することができる。

 特筆すべきポイントは、戸高氏のギターサウンドやアプローチだと思われる。「Heart Beat」において戸高氏はディレイを多用しており、全体的に音数の少ないバンドサウンドの中で存在感を放っている。派手なプレイはないが、堅実に楽曲を支えるアプローチに徹していることからも、ギタリストとして豊かな技量の高さを感じさせてくれる。

【総評】

 「The Alchemist」はミニアルバム形態で限られた楽曲数になっているにも関わらず、シューゲイザー/ニューウェーブ/ネオアコ/ギターポップ/ドリームポップ/グランジなど、幅広い音楽性からの影響を感じさせるバラエティ豊かなナンバーで構成されているのが、作品の大きな特色となっている。

 また、ROVOの益子樹氏のサウンドディレクションも加わり、よりバンドサウンドから広がりや温かみを感じられるようになっているのも大きいだろう。「Flora」の時もそうだったが、バンドのポテンシャルを引き出すような益子氏の手腕の高さは圧巻だ。