(冬の)路上
JESUS RECORDS / sputniklab inc.
2018-01-17


 今回は京都出身のインディバンドであるギリシャラブが、2018年にリリースしたEP作品「(冬の)路上」の全曲レビューである。「(冬の)路上」は志磨遼平(ドレスコーズ)監修のレーベル・JESUS RECORDSからリリースされており、新人バンドでありながらも大きな注目を集める契機になった。

 実際に「(冬の)路上」は作品としても丁寧に作りこまれており、サイケデリック、フォーク、シティポップ等の多くの要素が入り交じり、ユニークさに溢れた聴きごたえのある作品である。


1.からだだけの愛
 

 「からだだけの愛」という何とも強烈なタイトルで作品の幕を開ける。歌詞もどことなく退廃した感じに溢れ、それでいて寂しげな感じがあり、そういった部分が彼らの世界観を構築する重要なファクターとなっている。ボーカルの天川氏の声も色気があり、クセになる歌声をしていてそれもまた外せない要素の一つである。

 演奏面においてもAメロの煌びやかなギターアルペジオと、小刻みで気持ちの良いリードフレーズが上手く共存しており、丁寧で華やかな音像がビルドアップされている。

 更にユニークなギミックとしては、曲の随所に現れる女性コーラスが清涼感を演出していることだろう。天川氏の歌声と上手く混ぜあっており、楽曲のレベルを引き上げている。まさしく「(冬の)路上」を牽引するに相応しいリードナンバーとして機能している。

2.モデラート・カンタービレ

 「(冬の)路上」において最もダークでゴシックな雰囲気を纏った楽曲であり、彼ららしさがダイレクトに表れている楽曲だと思われる。"ギロチン”という単語が歌詞中に頻出しており、曲調も相まってガラッと空気が変わるような印象を強く受ける。

 天川氏の歌声も低く這うような歌い方で、これもまたマッチしており、楽曲をこれまでもかというほどに雰囲気付けている。

 男女混成の不安を誘うようなコーラスワークも、ダークな雰囲気を醸し出す上で外せない要素の一つだろう。ギリシャラブは本当にコーラスの使い方が絶妙だと感じさせられる。ラスサビ前では暴力的なファズギターが牙を向いており、楽曲のエンディングを大きくブーストさせるのに一役買っている。

3.ブラスバンド
 

 
先ほどの「モデラート・カンタービレ」とは打って変わって、どこか爽やかなテンションの曲だ。しかし、どことなくメランコリックでいて不安定なのには変わりがなく、曲と曲のバランス感覚が上手く取れている。

 陽気なワウギターがイントロから登場しており、音作りも一辺倒にならないような工夫がなされている。軽やかなカッティングやミュートフレーズも多く、どことなくシティポップにも通ずるようなアプローチが目立っている。

 他の楽器だとカウベルも顔をのぞかせており、中盤ではいきなりシンセサイザーのフレーズが大きく前に出たりと、なんでもありとなっており、聴きごたえがある楽曲になっている。間の抜けたコーラスもユニークで、何とも不思議なバランスで成り立っていることが分かるだろう。

4.ペーパームーン

 少し楽曲のテンポが落ち着いたところで、楽曲の後半部分に入ったことが肌で感じ取れる。イントロのスライドギターが感傷的で、耳に残るフレーズを弾いている。音色も相まって、まるでシタールのような音になっているのも興味深い。ギリシャラブのギターは、楽曲ごとによる表情の切り替えが物凄く上手だ。

 Aメロ部分では、これまであまりフォーカスされてこなかったアコースティックギターの音色が目立ち、フォーキーなテイストが表に出ている。音数も全体的に抑えられており、作品の後半にピッタリの配置となっている。

 他の楽曲に顕著だった男女混成のコーラスも「ペーパームーン」では鳴りを潜めており、天川氏のボーカルに焦点が当たっていて、きちんと差別化がなされているのもバンドでの工夫が活かされている証だろう。

5.どういうわけか

 「(冬の)路上」の最後を飾るナンバーとなっており、「ペーパームーン」と続いて全体的にローテンポで、音数も抑えられた形の楽曲である。「ブラスバンド」に引き続きカウベルが登場しており、全体的なアレンジの影響もあるのか、民族音楽のような雰囲気が強い。

 ボーカルにおいてもコーラスが入っておらず、天川氏が淡々と歌うかたちとなっている。作品の他の楽曲と比べて派手な音色や展開は無いのだが、それゆえに異質な雰囲気の楽曲となっており、「(冬の)路上」のエンドロールを担うのはこの楽曲以外に無いだろうとつくづく思わされる。

【総評】

 作品全体を通してどこかメランコリックでいて、危ない雰囲気がありながら、ポップで非常に耳なじみの良いものとなっていて、絶妙なバランスで成り立っている。楽曲ごとによる音の足し引きも巧妙に計算されている形跡があり、音楽的なバックグラウンドも非常に幅広く、彼らの高いポテンシャルが窺えるだろう。

 次作「悪夢へようこそ」ではハードロックや打ち込みの要素も顔を出しており、手を変え品を変えてリスナーに対して飽きさせない工夫をしている心意気が感じられる。現在コロナウィルスやバンドの体制の影響もあり、彼らの目立った活動を目にすることができないのが残念で仕方ないが、時が経って、いずれまた万全になった彼らの姿を目撃したいものだ。